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もすけブログ

ゲイイラストを中心に活動するもすけの本拠地。

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【作り話】①

教室の雑踏が嫌いだった。
クラスに馴染めなかった僕はいつも1人で音楽を聴きながら、机に伏せていた。
誰かと関わろうという気にはならなかった。
自分なんかと接する時間が、相手にとって有益なはずがないと思った。
特に、授業で班を作らなければいけない時は困った。
クラスに話せる人なんていなかった僕は、皆が順調に班を作っていく中、いつも最後まで余っていた。
心臓が、ドクドクとうるさくて。
惨めで、恥ずかしくて。
泣きそうになってる自分が、どうしようもなく嫌いで。
消えてしまいたかった。

「なあ」

でも、あの時だけは違った。

「お前確か、絵上手かったよな?一緒にやらね?」

最初、まさか自分に声がかかっているとは夢にも思わなかった僕は、とても自然に彼を無視した。

「……あれ?おーい、倉橋。聞いてるか?」

僕の目の前でぶんぶんと手のひらを振られて、僕は初めて声をかけられていることに気付いた。

それが、僕と松本の始まりだった。



松本とつるみ始めて最初にわかったことは、コイツはとても自己中心的なやつだということだった。
「あー、俺以外のやつ皆ぶっさいくだったら良いのに」
1日に1回はこのセリフを聞かされた。
「倉橋。その点お前は合格だ。いい感じに不細工だからな」
こういう失礼なことを平気で言ってしまえる男なのだ。松本という男は。
ニシシと笑う松本の顔に悪びれた様子はなかった。
たぶん松本も、僕と一緒で、他人と歩調を合わせるということができない類の人間なんだろう。
そう理解した。
「っていうか、ほんっと絵だけは上手いよな~」
椅子の背もたれに顎を乗せながら、感心そうに松本は言った。
「だけは、なんて言ったら駄目だよ松本くん!」
机をバンと叩いて立ち上がったのは、同じ班の市ヶ谷だった。
僕が絵は描けるけど字は下手だということを知った松本が、急遽他の班から引き抜いたのが書道部の市ヶ谷透。
人懐こい性格でクラスの誰からも慕われてる存在。
僕なんかとはまるで正反対の人種だと感じていた。
「じゃあお前コイツの長所他に言えんの?」
「そ……それは!言えるよ!!」
「じゃあ言ってみ?」
「は……は、肌がきれい」
「まぁ確かに綺麗だけどもさ、そういうことじゃなくね?」
「そういうことなの!!」
「ふーん」
僕が真面目にミドリムシのイラストを描いてる横で、松本と市ヶ谷はいつもこんな感じだった。
特定の微生物について研究し、そのプレゼンを班ごとにしなければならないのだけれど。
おそらく松本はただ、楽がしたかったんだろう。
自分よりも格下で、かつ自分の言うことを実直に遂行してくれそう人間に白羽の矢を立てたんだ。
たぶんきっと、僕は松本の理想的な奴隷として選ばれた。
普通なら嫌だと思うんだろうけど。
「なー倉橋ー。それ描けたら、コロッケパン買ってきて」
「松本くん!!!」
屈託のない笑顔で、松本が僕を見る。
なんでかな。その時僕は、誰かに必要とされたことが、嬉しかったんだ。


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