グースカと僕2
と言っても、グースカは本当によく眠るやつで。
中々僕のタイミングで話しかけることはできなかった。
この間も授業中に
グースカ「なぁなぁ、ちょっとこれみて見ろよ」
僕「…………」
グ「おいってば」
僕「…………」
グ「えいやっ!」
ブスリ(鉛筆が背中に突き刺さる音)
僕「いったーーーーーー!!」
先生「おいー!!またお前か!!なんだ、毎回毎回私の授業で騒ぎを起こして!嫌いなのか!?私が嫌いなのか!?それならそうとはっきりと――」
グ「ニシシ(笑)」
というようなことがあった。
他にも、廊下を歩いてる時にわき腹をくすぐられたり。
下駄箱で靴を履いてるときにヒザカックンされたり。
基本的にグースカはイタズラな性格らしい。
けど。
どんな悪戯をされても、不思議と悪い気はしなかった。
むしろ、こうやってグースカと過ごす毎日が、楽しくて仕方がなかった。
話はするけど、グースカのことは未だによくわからなかったりする。
好きな食べ物はコロッケだということと、
嫌いな教科は美術だということはなんとか聞き出せた。
嫌いだという割に、グースカはノートの隅や机にけっこう落書きをする。
この前グースカが描いていたアンパンマンのような落書きに
「アンパンマン?」
と言うと
「は?ちげーよ、町田先生だよ!」
と、美人で有名な保健室の町田先生の名を持ち出してきた瞬間、僕は理解した。
ああ、グースカがまともに絵をかけるようになる日は遠いな、と。
2月のはじめ。
体育のマラソンの授業の後。
僕が1人、校庭脇の水飲み場で水を飲んでいると、
水飲み場の向こう側から声が聞こえてきた。
「っつーか、アイツ超うけんべww」
「体育の授業では毎回お決まりの、びりっけつ(笑)」
体育でびりっけつと言うと……僕のことだ。
腰を曲げて水を飲んでいる僕の姿はどうやら相手に見えないらしい。
「あの走り方ほんとキモいよなー……寒気するよ!!」
「んで、たった2キロでひーひー言っちゃってんの、まじひくわー」
「勉強はトップクラスでもあれじゃあなぁ~……完全に負け組み?」
「言えてるww男として終わってんべww」
「…………」
蛇口から漏れる水の音が、やたらと遠い。
口に触れた水は、喉を通ることなく、排水溝に吸い込まれた。
だから……学校は嫌いなんだ。
いつもそう……どんなに頑張っても、馬鹿にされる。
勉強ができても、決して褒められる事はない。
むしろ、嫌味を言われ、嫌われる。
「しかも最近、授業中に変な声出したりしててマジウザくね?」
「自分は勉強できるから、授業なんてどうだっていいってかー」
「はー?マジムカつくわあいつ……死んでくれねーかな」
「…………」
ズキンと、心臓が痛い。
声なんて、ただの空気振動なのに……。
なのにどうしてこんなに痛いんだろう。
こんな時いつも、父と母の顔が浮かんだ。
そして胸の中で、こんな息子でごめんなさいと、謝らずにいられなくなる。
もう、やめちゃおうかな。
頑張るのも、生きるのも。
そんな事を、自嘲気味に考える。
……と、すぐ横で水がはねる音がした。
――グースカだった。
こちらを見ることなく。
ただがむしゃらに水を飲んでいる。
いつから、居たんだろう。
全然気付かなかった。
水を飲むたびに、喉仏がゴクゴクと動いているのが分かる。
……まただ。
僕はまた、グースカから目を離せなくなっている。
汗の滴る太い腕、肌の透けた体操服。
その全てが僕を惹き付けて止まなかった。
水を飲み終わったグースカは、手首で口元を拭うと、厳しい顔で僕を見た。
「俺は……お前が学校に来てると、嬉しいからな!」
まっすぐ、僕の目を見て、グースカは言った。
声なんて、ただの空気振動なのに。
どうして、こんなに胸を痛くさせるんだろう。
涙が、止まらなかった。
| イラスト | 14:34 | comments:8 | trackbacks:0 | TOP↑
あ、この風景僕が通ってた中学校の水飲み場に雰囲気が似てる…。
「来てると嬉しい」かぁー。
言われてみたいなーw
何か言ってやろうとして言うんじゃなくて
自然に自分の気持ちを言っているグースカから
もすけさんの優しさが伝わってきます。
1、2ときたら3を期待せずにはいられないっ(>_<)
| 雄大 | 2013/02/01 21:22 | URL | ≫ EDIT