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もすけブログ

ゲイイラストを中心に活動するもすけの本拠地。

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エピローグ

「なー風介、最新巻買ったか?」

「え?何の?…っていうか陸兄、部屋入る時ノックしてっていっつも言ってるよね」

「うるせーなぁ、何回言うんだよそれ。お!あるじゃんあるじゃん!」

「…ああ、ワンピースね。うん、読むんだったら読んでいいよ。ただし、僕の部屋で読んでね」

「あれ?でもこれ、なんで2冊あんだ?観賞用か?気持ち悪っ」

「いや、違うよ。勝手に決めつけて気持ち悪いってあんまりだよね。ちょっと色々あって、2冊になっちゃったの」

「色々ってなんだよ」

「僕を励ましてくれた人が居てさ、そのお礼に買ったんだけど、その人、居なくなっちゃって…」

「…ふーん。ま、いいや。どっち読んでも良いんだろ?」

「うん、いいよ」

「あー続き気になってたんだよなー!!よっこらセッティング完了♪」

「…その意味不明な掛け声とともに僕の布団にダイブするの止めてよ。ただでさえ陸兄体重重いんだから」

「あーはいはい、やめるやめる」

「……ったく~。…でも、どこ行っちゃったんだろうなぁ、本当に」






深夜。
高台の公園から町を見渡す。
家々やマンションから漏れる明かりに。
昼間よりも明確に人の営みを感じ取る。
もうすぐ4月だというのに未だ肌寒い夜風が心地よい。
そこで、ふいに香るラッキーストライクに、俺は口端を釣り上げた。

……が。
すぐに俺はあまりの驚愕の事態に、目を見開いてしまった。

「…おいおいおいおい……嘘だろ、嘘だろ、嘘だろ」

動揺を隠しきれずに呟きをもらす。

「あー……まぁ、でも、どっちも…やっちゃえばいっか」

俺は右手の鉄パイプを、しっかりと握りしめると、再び口角を釣り上げ、気持ちを昂ぶらせた。

ラッキーストライクは、こちらに気づいてない様子で、知らない女と楽し気に坂を登っていく。
あの時と同じように、その左手にはラッキーストライクが一本、収まっていた。
そしてあの時とは違って、その左手の薬指には、銀色の輪っかが、はまっていた。

「なんで…お前みたいなクズが、そんな風に……幸せそうに…おかしいだろ……なあ、おかしいよな……おかしいよ」

次から次へと。
感情が溢れては、笑いが止まらなくなった。

「はは………ははははは!!」

瞬間、俺は駆け出すと、ラッキーストライクとの距離を詰める。
その勢いを殺さないように鉄パイプをふりかぶると、こちらに気付いた女の側頭部に、躊躇なく叩きつけた。
女はラッキーストライクごと地面に転倒し、ビクンビクンと痙攣した後、動かなくなる。

ラッキーストライクは事態が飲み込めていないのか、目をパチクリとさせ、女の抉れた側頭部を見ている。

「や~!会いたかった~ラッキーストライク~!!あの時は、どうもー!」

俺が元気に声を出すと、ラッキーストライクはビクリと体を震わせ、こちらを見る。
驚き、恐怖、怒り、悲しみ、絶望、不安。
そのどれともつかない表情で、俺を、見上げている。
見上げている、俺を。俺を。俺を――

「覚えてる?ちょうど一年前、俺があんたに歩きタバコをやめて欲しいって言ったとき、あんたが俺にしたこと。俺は忘れてないよ、覚えてるずっと。馬鹿みたいに。まぁでもあんたが忘れてても関係ないよなぁ、うん。痛かったな―、歯3本、折れたんだよ、知ってる?俺、あんたに歯ぁ折られてさぁ、うん、おかしいよね、うん、どう考えたって、公共の場であんな迷惑なもん吸ってるあんたが害悪なのに、うん、なんで正義の俺がボコられて?意味不明すぎてもうわけわかんないって感じなわけ」

喜び。俺を今、満たしている感情の名前。
やっと、やっとあの痛みを、恐怖を、忘れられる。

ラッキーストライクの表情は、もうすっかり、恐怖一色だった。

そうだ。そうだよ。
これが本来のカタチ。俺みたいな人間が、どうして、こんなクズどもに虐げられて、生きなきゃいけないんだ、って話。
やっと、やっとだ。やっと、分かった。さいしょから、こうしてればよかったんだよ。

「で、なんかもうめんどくさいから殺しちゃおうかな、って。うん。天才だよね俺。ジーニアス!!はっ……ははは。うん、いいね、その顔。怖いんだ?オシッコ漏らしちゃってるけど、大丈夫?いいねぇ…好きだなぁ…うん、食べちゃいたいくらい、好きだなぁ。でも……」

鉄パイプとアスファルトが擦れる音が、閑静な住宅街に木霊する。

「クセェから、いらねーや」

ゴルフのスイングのように。
俺は鉄パイプでラッキーストライクの顎を叩き割った。
反動で勢い良く叩きつけられたラッキーストライクの後頭部からも、真っ赤な血液が流れでる。
それは、今し方砕いた女の頭から流れ出るそれと混ざり合った。

「これで、ハッピーエンド?あはぁ……あははははぁ!!」

気持ちが昂ぶり、俺はそのまま失禁をした。

鉄パイプを、何度もラッキーストライクに振り下ろす。
頭も、胸も、腕も、肩も、腰も、足も、全部、叩き潰した。
そうしなきゃ、俺が、殺されちゃうんだ。怖いんだ、怖いんだよ。

「全部。この世界が悪いんだ、うん」

ああ。
気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。

「全部、全部、全部、俺は、悪くないのに、うん、全部、他の奴らが、俺を、殺そうとするんだ」

いいながら俺は、ラッキーストライクの懐から、煙草を取り出した。中にはまだ、何本か残ってる。
白地に赤い丸が印象的なそのタバコを自分のポケットにしまった。

「戦利品ゲット~♪」

一年前の、歯の痛みを、俺はまだ、覚えてる。
その前の、陰口の痛みも覚えてるし、それからメガネのも――

「でも、歯の痛みはもうこれでわーすれた。あとまだいっぱい、痛かったから…うん、皆…殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺されちゃうから、痛いんだ、うん。だから、ね……良いよね、別に。奪っても、殺しても。そうされても、仕方ないよね」

ふと、自分の口からダラダラと涎が溢れていることに気付くが、もう、どうだっていい。
もう、どうだっていい。
今はただ、この恐怖と、痛みを、忘れたい。
忘れたいから、殺さなきゃ。
うん。殺そう。
殺そう。全員、殺そう。

閑静な夜の住宅街に、血まみれの鉄パイプを引きずる音だけが、ただ、響き続けた――

 完

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