ある整備士の憂鬱
………はぁ。
「どうしたんスか?ため息なんてついて」
あっけらかんとした声色で尋ねられて、俺はもう一度、ため息をついた。
「あーまた」と続いた声は無視する。
本当なら。
今頃温かい布団に包まれて、昨日買ったばかりの最新ゲームの攻略に勤しんでるはずだった。
…のに。
「しかし酷いッスよねー。オラ達が一体何したっていうんスかねー」
……どの口がそんなことを言うのか。
俺の足元であぐらをかきながら、ブツブツと呟いてる赤髪の男。
俺のため息の根源は、コイツだ。
「だいたい、俺は嫌なんスよ、人型殺戮兵器の整備なんて。俺がしたいのはもっとこう、世のため人の為になるような――」
ボカッ
「いてっ!」
ついつい、げんこつまんじゅうをくれてしまった。
「いきなりなんスか!!」
口を尖らせる後輩の整備士に向けて、俺は言った。
お前が隊長の機体の操縦席に犬の糞なんて放置しなけりゃ、俺は今頃東の洞窟のドワーフにオリハルコンの剣を作ってもらえていたんだ。
と。
「…す、すんません」
至って低いトーンで言い聞かせたのが聞いたのか、後輩はすぐにおとなしくなった。
早いところ隊員全員の機体をピカピカに磨き上げないと、徹夜の作業になってしまう。
こんなくだらないことで時間を食っている場合ではないのだ。
「そういえば先輩、今ドワーフが云々って言ってましたけど、もしかしてドゴランクエストやってるんスか?」
こいつは、黙っているということができないのだろうか。すぐにまた、おしゃべりを始めだした。
「実は俺もプレイしてるんスけど、びっくりしますよ!その東の洞窟のラストで、主人公をかばって、チョビン死んじゃうんスから!!」
…………。
「やー!早く先輩もプレイしたほうが良いっスよ!?あれは流石の俺も泣いちゃっ――うげっ」
いつぶりだろう。
こんなに、殺意を誰かに向けたのは。
「ぐぁ…く……苦しい!先輩…首……首しまって…しぬっ…!!」
問題ない。殺そうと思っている。
そう呟いた瞬間、整備ドックの入り口が怒声が響いてきた。
「てめぇら何やってんだ!!とっとと終わらせねーかボケぇぇええ!!」
砲撃手のドッズだ。俺達の見張りとして突き合わされている彼は、バカな後輩の被害者その2でもある。
力を込めていた手を、離す。
「ぷはぁ!!ちょ……いきなりなにするんスか!?」
空気を必死に吸い込みながら、後輩は涙目で訴えてきた。
俺はもう、言葉を発する事をしなかった。
ただ、「チョビンが…なんだって?」という意思を込めて後輩を見つめ続けた。
「……ネタバレして、すんません」
くそっ。
こんなことをしてる場合じゃないのに。
遅々として進まない作業に苛立ちを隠せずに居ると。
「先輩……」
何も学習しないのか、コイツは。
舌打ち混じりに顔だけを向けると。
「なんかしんないんスけど……勃っちゃって…」
………はぁ。
そうだった。コイツは根っからのM気質なんだった。
首なんて締めようもんなら、そりゃあ…。
「あ~、またため息ついた」
誰のせいだよ…と、脳内でひとりごちた後で、俺はめいっぱい力を込めて、いきり勃った後輩の股間を踏んづけた。
「あああああああああああんっ!!!」
「おいいいいいい!!お前らやる気あんの!?とっとと終わらせろよ!早くオリハルコンの剣作んなきゃいけねーんだよ俺は!!」
ドッズの悲痛で切実な叫びが、整備ドックに木霊した。
おわり
「どうしたんスか?ため息なんてついて」
あっけらかんとした声色で尋ねられて、俺はもう一度、ため息をついた。
「あーまた」と続いた声は無視する。
本当なら。
今頃温かい布団に包まれて、昨日買ったばかりの最新ゲームの攻略に勤しんでるはずだった。
…のに。
「しかし酷いッスよねー。オラ達が一体何したっていうんスかねー」
……どの口がそんなことを言うのか。
俺の足元であぐらをかきながら、ブツブツと呟いてる赤髪の男。
俺のため息の根源は、コイツだ。
「だいたい、俺は嫌なんスよ、人型殺戮兵器の整備なんて。俺がしたいのはもっとこう、世のため人の為になるような――」
ボカッ
「いてっ!」
ついつい、げんこつまんじゅうをくれてしまった。
「いきなりなんスか!!」
口を尖らせる後輩の整備士に向けて、俺は言った。
お前が隊長の機体の操縦席に犬の糞なんて放置しなけりゃ、俺は今頃東の洞窟のドワーフにオリハルコンの剣を作ってもらえていたんだ。
と。
「…す、すんません」
至って低いトーンで言い聞かせたのが聞いたのか、後輩はすぐにおとなしくなった。
早いところ隊員全員の機体をピカピカに磨き上げないと、徹夜の作業になってしまう。
こんなくだらないことで時間を食っている場合ではないのだ。
「そういえば先輩、今ドワーフが云々って言ってましたけど、もしかしてドゴランクエストやってるんスか?」
こいつは、黙っているということができないのだろうか。すぐにまた、おしゃべりを始めだした。
「実は俺もプレイしてるんスけど、びっくりしますよ!その東の洞窟のラストで、主人公をかばって、チョビン死んじゃうんスから!!」
…………。
「やー!早く先輩もプレイしたほうが良いっスよ!?あれは流石の俺も泣いちゃっ――うげっ」
いつぶりだろう。
こんなに、殺意を誰かに向けたのは。
「ぐぁ…く……苦しい!先輩…首……首しまって…しぬっ…!!」
問題ない。殺そうと思っている。
そう呟いた瞬間、整備ドックの入り口が怒声が響いてきた。
「てめぇら何やってんだ!!とっとと終わらせねーかボケぇぇええ!!」
砲撃手のドッズだ。俺達の見張りとして突き合わされている彼は、バカな後輩の被害者その2でもある。
力を込めていた手を、離す。
「ぷはぁ!!ちょ……いきなりなにするんスか!?」
空気を必死に吸い込みながら、後輩は涙目で訴えてきた。
俺はもう、言葉を発する事をしなかった。
ただ、「チョビンが…なんだって?」という意思を込めて後輩を見つめ続けた。
「……ネタバレして、すんません」
くそっ。
こんなことをしてる場合じゃないのに。
遅々として進まない作業に苛立ちを隠せずに居ると。
「先輩……」
何も学習しないのか、コイツは。
舌打ち混じりに顔だけを向けると。
「なんかしんないんスけど……勃っちゃって…」
………はぁ。
そうだった。コイツは根っからのM気質なんだった。
首なんて締めようもんなら、そりゃあ…。
「あ~、またため息ついた」
誰のせいだよ…と、脳内でひとりごちた後で、俺はめいっぱい力を込めて、いきり勃った後輩の股間を踏んづけた。
「あああああああああああんっ!!!」
「おいいいいいい!!お前らやる気あんの!?とっとと終わらせろよ!早くオリハルコンの剣作んなきゃいけねーんだよ俺は!!」
ドッズの悲痛で切実な叫びが、整備ドックに木霊した。
おわり
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