人と獣人
ねぇ。世界は、綺麗かな。
「どした、急に」
人が悲しむことって、結局のところ、なんなんだろう。
「言ってる意味が分からんけど」
僕は獣人で、君は人間じゃない?
「ああ、そうだな」
君から――人間から見える世界は、たぶん、僕――獣人から見る世界は、同じかな。
「同じ世界だろ」
……男か女か。右か左か。立つ場所が、少し違うだけで、見える世界は、全然違うのに?
「ん~…同じじゃないか?」
僕が今、どんな気持ちか分かる?
「さあ…少なくとも、元気モリモリ!って感じじゃあ無いんじゃないの」
獣人はね。元来地上の王だったんだ。獣人が、地上を、支配してた。
「ん、知ってる。そこに人間が現れて、急速に増えたんだっけか」
そう。あの頃、僕達は、僕達だった。
「詩人だな」
かもね。君達人間のおかげかな。昔はこんなこと、考えもしなかった。
「なら、良い事じゃねぇか」
どうかな…。でも、これだけははっきり分かるんだ。僕は、君が好きだよ。
「へっ…」
でも、人間は嫌い。獣人を、支配しようとするから。
「獣人だって昔はそうしてたんじゃねぇの?」
僕達は、生きる為に殺した。人間は、満ちるために殺す。
「極一部の奴が、だろ。俺だって、そいつらに対してはムカついてるよ」
ぼくは思うんだ。極一部なのは、君なんじゃないかって。
「……」
人間の大半は、僕達を、支配しようとする。捕獲して、傷めつけて、優越感に浸って、殺す。食べもせずに。奴隷として、一生、惨めにこき使われる仲間も…。
「要するに何が言いてぇんだよ」
あの頃見た夕焼け。本当に綺麗だった。体力馬鹿のコアッハも、頭でっかちのハクムも、食い意地の張ったネヒマ。皆で見た夕焼け。
「俺はそんな夕焼け知らねぇ」
…僕が今、どんな気持ちか教えてあげるよ。
「ん?」
君を、食べたくてしょうがないんだ。
「はっ…獣人様は綺麗だねぇ」
分かり合えることがないなら。寄り添おうともしないなら。僕が人間を、支配してやる。
「コアッハも、ハクムも、ネヒマも、もう居ないのにか」
これ以上僕みたいな仲間を、増やしたくない。
「だから、人間にも同じことを…ね」
最初に僕達を支配したのは人間だ。痛みを分からせないと。
「俺達人間は、獣人の仲間じゃないのかい?」
仲間になることはできるけど、今は違う。
「歩み寄ろうとしたのか?」
したよ!!した!!散々僕達は!!
「どうだか」
コアッハは助けた人間の爺さんに殺されて毛皮になった!!ハクムは心を病んだ人間のキチガ○の金持ちを気遣って、死ぬまで性奴隷にされた!!ネヒマは惚れた人間の女に食材にされた!!裏切ったのはいつも、皆、人間だ!!だから殺す!八つ裂きにして!!火炙って!!蹂躙してやるんだよ!!そうしなきゃ、わからないから!!
「憎しみが連鎖するだけだ」
他人事みたいに…っ!!
「…俺も殺すか」
けしかけけたのは君だろ!
「お前の腕力なら、俺の頭蓋骨なんて、シャボン玉潰すみたいに潰せるんだろうな」
君は…どっちの味方なのさ。
「俺は、お前の味方だよ」
じゃあ、なんで止めるの。
「お前に、人殺しになって欲しくないから」
…それは、僕の味方をしてないよ。自分が傷つきたくないだけじゃないか。
「俺が今生きてる。それが答えだよ。」
なにそれ。
「お前が心から人間を滅ぼそうと思うなら。俺のコトもためらわず殺せないと駄目だろ。でも、俺は、生きてる。それはつまり、少なくともお前は、人間を、滅ぼさなくてもいいっていう選択肢を心のどっかに持ってるからじゃないのか。そんな気持ちで人間を殺してもお前は、苦しむだけだ。そんなお前を、見たくない」
知った風なこと言わないでよ。
「俺が殺す。」
……え?
「お前は殺すな。人間は、俺が滅ぼす。」
……なんだよそれ。
「それが、一番いい」
なんだよそれ…気持ち悪い。そうじゃないんだよ。…もう良いや。
「…おい、待て」
なんか疲れた…。ごめんね。せめて、僕のこと食べてね。
「やめっ…!!」
綺麗な夕焼け、君は、見つけてよ――
あれから。
世界から獣人は絶滅した。
文献にも、彼らのことは、残っていない。
人が、彼らに対して行ったことの記録は。
人にとって都合の悪いものなんだそうだ。
「…………」
首からぶら下げた、牙のネックレス。
すっかり爺さんになっちまった、俺の、宝物。
「…………」
八重歯って言ったら良いのか、犬歯って言ったら良いのか。
よくわからないけど。
アイツの笑顔は、それが、印象的だった。
アイツの笑顔が大好きだったのに。
俺は結局、最後にアイツを、泣かせてしまった。
「……あの時、一緒に戦っていたら」
綺麗な夕焼け。
俺は見てたよ。お前と一緒に。
でも今度はアイツが見たかった世界を。
一緒に。
千年に一度だけ。
姿を表すという幻の塔。
死者の国と繋がるというその塔は、
登り切ったものの願いを一つだけ、叶えるという。
「……こんな綺麗な世界に、お前を呼び戻したら。お前また、俺に食って掛かるかな」
胸元のネックレスを、握りしめる。
「でも、今度はちゃんと、上手くやるから」
「どした、急に」
人が悲しむことって、結局のところ、なんなんだろう。
「言ってる意味が分からんけど」
僕は獣人で、君は人間じゃない?
「ああ、そうだな」
君から――人間から見える世界は、たぶん、僕――獣人から見る世界は、同じかな。
「同じ世界だろ」
……男か女か。右か左か。立つ場所が、少し違うだけで、見える世界は、全然違うのに?
「ん~…同じじゃないか?」
僕が今、どんな気持ちか分かる?
「さあ…少なくとも、元気モリモリ!って感じじゃあ無いんじゃないの」
獣人はね。元来地上の王だったんだ。獣人が、地上を、支配してた。
「ん、知ってる。そこに人間が現れて、急速に増えたんだっけか」
そう。あの頃、僕達は、僕達だった。
「詩人だな」
かもね。君達人間のおかげかな。昔はこんなこと、考えもしなかった。
「なら、良い事じゃねぇか」
どうかな…。でも、これだけははっきり分かるんだ。僕は、君が好きだよ。
「へっ…」
でも、人間は嫌い。獣人を、支配しようとするから。
「獣人だって昔はそうしてたんじゃねぇの?」
僕達は、生きる為に殺した。人間は、満ちるために殺す。
「極一部の奴が、だろ。俺だって、そいつらに対してはムカついてるよ」
ぼくは思うんだ。極一部なのは、君なんじゃないかって。
「……」
人間の大半は、僕達を、支配しようとする。捕獲して、傷めつけて、優越感に浸って、殺す。食べもせずに。奴隷として、一生、惨めにこき使われる仲間も…。
「要するに何が言いてぇんだよ」
あの頃見た夕焼け。本当に綺麗だった。体力馬鹿のコアッハも、頭でっかちのハクムも、食い意地の張ったネヒマ。皆で見た夕焼け。
「俺はそんな夕焼け知らねぇ」
…僕が今、どんな気持ちか教えてあげるよ。
「ん?」
君を、食べたくてしょうがないんだ。
「はっ…獣人様は綺麗だねぇ」
分かり合えることがないなら。寄り添おうともしないなら。僕が人間を、支配してやる。
「コアッハも、ハクムも、ネヒマも、もう居ないのにか」
これ以上僕みたいな仲間を、増やしたくない。
「だから、人間にも同じことを…ね」
最初に僕達を支配したのは人間だ。痛みを分からせないと。
「俺達人間は、獣人の仲間じゃないのかい?」
仲間になることはできるけど、今は違う。
「歩み寄ろうとしたのか?」
したよ!!した!!散々僕達は!!
「どうだか」
コアッハは助けた人間の爺さんに殺されて毛皮になった!!ハクムは心を病んだ人間のキチガ○の金持ちを気遣って、死ぬまで性奴隷にされた!!ネヒマは惚れた人間の女に食材にされた!!裏切ったのはいつも、皆、人間だ!!だから殺す!八つ裂きにして!!火炙って!!蹂躙してやるんだよ!!そうしなきゃ、わからないから!!
「憎しみが連鎖するだけだ」
他人事みたいに…っ!!
「…俺も殺すか」
けしかけけたのは君だろ!
「お前の腕力なら、俺の頭蓋骨なんて、シャボン玉潰すみたいに潰せるんだろうな」
君は…どっちの味方なのさ。
「俺は、お前の味方だよ」
じゃあ、なんで止めるの。
「お前に、人殺しになって欲しくないから」
…それは、僕の味方をしてないよ。自分が傷つきたくないだけじゃないか。
「俺が今生きてる。それが答えだよ。」
なにそれ。
「お前が心から人間を滅ぼそうと思うなら。俺のコトもためらわず殺せないと駄目だろ。でも、俺は、生きてる。それはつまり、少なくともお前は、人間を、滅ぼさなくてもいいっていう選択肢を心のどっかに持ってるからじゃないのか。そんな気持ちで人間を殺してもお前は、苦しむだけだ。そんなお前を、見たくない」
知った風なこと言わないでよ。
「俺が殺す。」
……え?
「お前は殺すな。人間は、俺が滅ぼす。」
……なんだよそれ。
「それが、一番いい」
なんだよそれ…気持ち悪い。そうじゃないんだよ。…もう良いや。
「…おい、待て」
なんか疲れた…。ごめんね。せめて、僕のこと食べてね。
「やめっ…!!」
綺麗な夕焼け、君は、見つけてよ――
あれから。
世界から獣人は絶滅した。
文献にも、彼らのことは、残っていない。
人が、彼らに対して行ったことの記録は。
人にとって都合の悪いものなんだそうだ。
「…………」
首からぶら下げた、牙のネックレス。
すっかり爺さんになっちまった、俺の、宝物。
「…………」
八重歯って言ったら良いのか、犬歯って言ったら良いのか。
よくわからないけど。
アイツの笑顔は、それが、印象的だった。
アイツの笑顔が大好きだったのに。
俺は結局、最後にアイツを、泣かせてしまった。
「……あの時、一緒に戦っていたら」
綺麗な夕焼け。
俺は見てたよ。お前と一緒に。
でも今度はアイツが見たかった世界を。
一緒に。
千年に一度だけ。
姿を表すという幻の塔。
死者の国と繋がるというその塔は、
登り切ったものの願いを一つだけ、叶えるという。
「……こんな綺麗な世界に、お前を呼び戻したら。お前また、俺に食って掛かるかな」
胸元のネックレスを、握りしめる。
「でも、今度はちゃんと、上手くやるから」
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