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もすけブログ

ゲイイラストを中心に活動するもすけの本拠地。

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プロローグ

深夜。
高台の公園から町を見渡す。
家々やマンションから漏れる明かりに。
昼間よりも明確に人の営みを感じ取る。
もうすぐ4月だというのに未だ肌寒い夜風が心地よい。
けど、ふいに香るラッキーストライクに俺は眉をしかめた。

遥か遠くの思い出になんだか泣きそうになりながら。
劣等や焦燥や孤独や痛みに、歯を食いしばって耐えながら。
それでも生きてる理由はなんだっけ。
笑顔で写真に写ってる十年前の俺ならその答えを知ってるだろうか。

「死んじゃおうかな」
そう呟いた友人を必死に止めたあの日の夜を、今更になってよく思い出す。
「生きてるのが辛い」「鬱だ」「もう嫌だ」「何も楽しくない」「死にたい」
そう言ってた友人から先日、一通のはがきが届いた。
満面の笑顔の新郎新婦がそこには写ってた。

ラッキーストライクに声をかける。
歩きタバコを注意するとラッキーストライクは逆上して俺を殴りつけた。
何度も、何度も、頬に拳を打ち付けられる。

あの日の俺が、友達の自殺を止めた理由はなんだっけ。
たぶん、十年前の俺でも、その理由はわからないだろう。
一つだけ確かなのは。
別にそいつが――友人が死のうがどうしようが、正直どうでも良かった、っていうこと。




目が覚めると、そこは公園だった。
体中が痛いのはきっと、意識を失ってからも、何度もラッキーストライクから暴行を受けたんだろう。
どうせなら、殺してくれればよかったのに。

30年生きた。
悪いこともせず、誰にも迷惑をかけず。真面目一徹に。
学校でも職場でも、「いい人」という称号をいつももらってた。

口の中の違和感にツバを吐き出すと、地面に歯が転がった。
何本か歯がないのを、舌で確かめる。

なあ。神様。
これで、満足か?
あんたが満足してくれてるなら、それでいいけどさ。
そうじゃなかったら、俺が生きてる理由なんてそれこそ……。

「…………あ、あの」

木琴を叩いたような声がして、俺はそちらへと視線を向ける。

「大丈夫ですか?」

メガネを掛けた子供が、今にも泣きそうな顔で俺の顔を覗き込んでいた。
今何時だと思ってんだよ。
そんな事を思いながら、俺は目を逸らした。

大きく、息を吸う。
肺が痛む。
けど、もうどうだっていい。
その痛みで死のうが、かまわない。
痛みを無視して、息を、吸い続ける。

「お前も早く、結婚できるといいな」

友人の結婚報告のハガキに書かれていた言葉。
その言葉を見た瞬間、俺は過去に味わったことのないほどの、屈辱を味わった。
俺の気も、知らないで。

肺いっぱいに溜めた息を、何をするでもなく、吐き出す。

「なんで、俺に声かけたんだ?」

空は真っ黒だった。
星も、月も、見えない。
ただ、遠くの方で、町の灯がチカチカと目障りに光っている。

俺の問いかけに、メガネは言葉をつまらせた。

「……わかんねぇよな。俺も、同じだったよ」

俺はメガネの頭にポンと手を置き

「ありがとな」

そう、呟いた。

「あ……あの!!」

メガネが何か言っているのを無視して、俺は帰路につく。
あと何時間後には、本屋のバイトに行かなくちゃいけない。

あー。
歯、どうしよっかな。


  終

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