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もすけブログ

ゲイイラストを中心に活動するもすけの本拠地。

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第二話

歯の抜けた空間を、舌でグリグリやるのが癖になりつつあるのを自覚しつつ、俺は時計を見た。
バイトが終わるまであと10分ちょい。

「はよっすー」

俺の次のシフトに入る、黒髪の男がやってきた。
やたらとでかいそのガタイは、書店にはあまり似つかわしくない様に感じるが、正直書店の仕事ってのは、力仕事が占める割合も大きい為意外と重宝されているのも事実だ。

「はよっすじゃない。「おはようございます」だろ。いい加減あいさつくらいはちゃんとできるようになれ、単細胞」

でかいガタイの後ろから、これまた対象的な小柄でメガネの男が現れると、でかいガタイの横腹をつまんだ。

小柄はパッと見、高校生か大学生くらいに見えるが。
実はもういい大人であり、この書店の店長でもある。

「ちょ、そのお腹ムニってすんの止めてくださいよ、太ってきたの気にしてんすから」

「知ってる。だからやったんだよ、バカ」

「いちいち語尾に悪口挟むのも止めて欲しいんすけど…」

「わかったから早く奥に行け、肉だるま」

「……わかってないじゃんすか、チビ店長」

「おい、聞こえてんぞ」

「いててて!腹つままないでくださいって~!!」

そんなやり取りをしながら、2人はレジの奥へと消えていった。

「……いらっしゃいませー」

あの2人は、付き合っているんだろうか?
じゃれあう同性同士をみかけるとそう思ってしまうのは、俺が同性愛者だからなのかな。
同時に。
なんだか虚しくなるのは、俺がこれまで、満たされてこなかったからなんだろうな。

こういう時は決まっていつも、胸の奥がモヤモヤと気持ち悪くなる。

「カバーはお掛けしますか?」

はい、という返事に相槌を打ちながら、こなれた手つきで、OL風の女性が持ってきたBL小説の会計を済ませると、特に感情を込めることもなく「ありがとうございました」と丸まった背中を見送る。

先日の。
欠けた歯は、いらないから、捨てた。
そうやって俺は、これまで出会った「友人」と呼んでいた人達も、捨ててきた。
いや、もしかしたら。
捨てられたのは、俺だったのかもしれない。

必要ないって思ったのは。
そう思わなければ、どうにかなってしまいそうで。

独りで生きていくって誓ったのは。
そうやって距離をはからなければ、この世界から爪弾きにされてしまいそうで。

ただ、怖かったんだ。

グリグリと、歯の隙間をいじる。

こんな俺にも。
人なみに、好きな人っていうのが居た。
今じゃもう、どんな声だったかも、思い出せないけど。
だけど凄く、心地良い声だったのを覚えてる。

「すみません、これください」

そう、ちょうどこんな、木琴を叩いたみたいな――

「………何やってんだメガネ」

そこには高台の公園で見知ったメガネの少年が立っていた

「何って、本を買いに来たんですよ」

「いや…まぁ…そうだよな」

言いながら俺は、なにか釈然としない気持ちで、メガネから本を受け取る。

「…お前、医学書って…。もっと子供らしい本読めよ」

「別に、僕が何を読もうが良いじゃないですか」

「……ほんっと…かわいくねぇな」

仏頂面を、多分俺は、してるんだろう。
メガネの前では、いつも、だいたいこの顔だろうな。

他の。
どの他人の前でも、作り笑いしてなきゃ、不安だったのに。

「ほら」

「……あの、いくらですか?」

「いらねーよ」

「…僕、万引きはしたくないです」

「ばーか、俺が払うから、持ってけ」

「そういうの困ります」

「じゃあ売ってやんねー」

「なんですかそれ」

「いらねーのか?」

「…他の店で買います」

「…頑固なガキだな」

「あなたも、よくわからない人ですね」

「礼だよ」

「…え?」

「歯、無くなった時、お前、声かけてくれたろ。あれの、礼」

「………それなら僕だって、お守りボロボロにされた時、声かけてもらいました」

「…じゃあ、そうだなぁ。お前は俺にワンピース買ってくれ」

「ワンピース?…着るんですか?」

「漫画だよバカ」

「ああ…そっちのですか」

「たりめーだろうよ」

「……何巻ですか?」

「最新巻。まだでてねーやつ」

「……本当に、良いんですか?」

「良いって言ってんだろ。ほら、とっとと受け取れ。他の客来んだろ」

「…ありがとうございます」

「ありがとう!お兄ちゃん!って、そこらのガキなら言うんだけどな」

「悪かったですね、可愛くなくて」

「ま、メガネらしーけどな」

「じゃあ、発売日に、また来ます。お兄さん、居ますよね?」

「居る居る、同じ時間に。ちゃんとウチの店で買って売上立てろよな」

「分かってますよ…じゃあ、失礼します」

「ばいばいお兄ちゃん!!って、そこらのガキなら――」

「ばいばい、お兄ちゃん」

「……おえ」

「失礼な人ですね」

吐く真似をする俺に向けて口を尖らせると、メガネはぷりぷりと店を出て行った。

と。

「へ~、そんな風にわらうこともあるんすね」

奥からでかいガタイがニヤニヤしながら出てきた。

「み…見てたんですか?」

「ばいばい、お兄ちゃん!の辺りから」

でかいガタイの陰から、店長が顔をだす。

「じゃ…じゃあ、時間なんで。おつかれさまです」

俺は、逃げるようにして、その場を後にした。
自分でも分かるくらいに、顔が熱くなってる。
たぶん、りんごみたいに真っ赤になってるだろう

くそ、あのメガネのせいだ。
今度あったら、ちからいっぱい鼻をつまんでやる。

………今度、会ったら。

グリグリと歯の隙間を弄ってみる。
不思議と。
胸の奥にあったもやもやは、無くなっていた。

| 作り話 | 17:46 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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