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もすけブログ

ゲイイラストを中心に活動するもすけの本拠地。

2016年03月 | ARCHIVE-SELECT | 2016年05月

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エピローグ

「なー風介、最新巻買ったか?」

「え?何の?…っていうか陸兄、部屋入る時ノックしてっていっつも言ってるよね」

「うるせーなぁ、何回言うんだよそれ。お!あるじゃんあるじゃん!」

「…ああ、ワンピースね。うん、読むんだったら読んでいいよ。ただし、僕の部屋で読んでね」

「あれ?でもこれ、なんで2冊あんだ?観賞用か?気持ち悪っ」

「いや、違うよ。勝手に決めつけて気持ち悪いってあんまりだよね。ちょっと色々あって、2冊になっちゃったの」

「色々ってなんだよ」

「僕を励ましてくれた人が居てさ、そのお礼に買ったんだけど、その人、居なくなっちゃって…」

「…ふーん。ま、いいや。どっち読んでも良いんだろ?」

「うん、いいよ」

「あー続き気になってたんだよなー!!よっこらセッティング完了♪」

「…その意味不明な掛け声とともに僕の布団にダイブするの止めてよ。ただでさえ陸兄体重重いんだから」

「あーはいはい、やめるやめる」

「……ったく~。…でも、どこ行っちゃったんだろうなぁ、本当に」






深夜。
高台の公園から町を見渡す。
家々やマンションから漏れる明かりに。
昼間よりも明確に人の営みを感じ取る。
もうすぐ4月だというのに未だ肌寒い夜風が心地よい。
そこで、ふいに香るラッキーストライクに、俺は口端を釣り上げた。

……が。
すぐに俺はあまりの驚愕の事態に、目を見開いてしまった。

「…おいおいおいおい……嘘だろ、嘘だろ、嘘だろ」

動揺を隠しきれずに呟きをもらす。

「あー……まぁ、でも、どっちも…やっちゃえばいっか」

俺は右手の鉄パイプを、しっかりと握りしめると、再び口角を釣り上げ、気持ちを昂ぶらせた。

ラッキーストライクは、こちらに気づいてない様子で、知らない女と楽し気に坂を登っていく。
あの時と同じように、その左手にはラッキーストライクが一本、収まっていた。
そしてあの時とは違って、その左手の薬指には、銀色の輪っかが、はまっていた。

「なんで…お前みたいなクズが、そんな風に……幸せそうに…おかしいだろ……なあ、おかしいよな……おかしいよ」

次から次へと。
感情が溢れては、笑いが止まらなくなった。

「はは………ははははは!!」

瞬間、俺は駆け出すと、ラッキーストライクとの距離を詰める。
その勢いを殺さないように鉄パイプをふりかぶると、こちらに気付いた女の側頭部に、躊躇なく叩きつけた。
女はラッキーストライクごと地面に転倒し、ビクンビクンと痙攣した後、動かなくなる。

ラッキーストライクは事態が飲み込めていないのか、目をパチクリとさせ、女の抉れた側頭部を見ている。

「や~!会いたかった~ラッキーストライク~!!あの時は、どうもー!」

俺が元気に声を出すと、ラッキーストライクはビクリと体を震わせ、こちらを見る。
驚き、恐怖、怒り、悲しみ、絶望、不安。
そのどれともつかない表情で、俺を、見上げている。
見上げている、俺を。俺を。俺を――

「覚えてる?ちょうど一年前、俺があんたに歩きタバコをやめて欲しいって言ったとき、あんたが俺にしたこと。俺は忘れてないよ、覚えてるずっと。馬鹿みたいに。まぁでもあんたが忘れてても関係ないよなぁ、うん。痛かったな―、歯3本、折れたんだよ、知ってる?俺、あんたに歯ぁ折られてさぁ、うん、おかしいよね、うん、どう考えたって、公共の場であんな迷惑なもん吸ってるあんたが害悪なのに、うん、なんで正義の俺がボコられて?意味不明すぎてもうわけわかんないって感じなわけ」

喜び。俺を今、満たしている感情の名前。
やっと、やっとあの痛みを、恐怖を、忘れられる。

ラッキーストライクの表情は、もうすっかり、恐怖一色だった。

そうだ。そうだよ。
これが本来のカタチ。俺みたいな人間が、どうして、こんなクズどもに虐げられて、生きなきゃいけないんだ、って話。
やっと、やっとだ。やっと、分かった。さいしょから、こうしてればよかったんだよ。

「で、なんかもうめんどくさいから殺しちゃおうかな、って。うん。天才だよね俺。ジーニアス!!はっ……ははは。うん、いいね、その顔。怖いんだ?オシッコ漏らしちゃってるけど、大丈夫?いいねぇ…好きだなぁ…うん、食べちゃいたいくらい、好きだなぁ。でも……」

鉄パイプとアスファルトが擦れる音が、閑静な住宅街に木霊する。

「クセェから、いらねーや」

ゴルフのスイングのように。
俺は鉄パイプでラッキーストライクの顎を叩き割った。
反動で勢い良く叩きつけられたラッキーストライクの後頭部からも、真っ赤な血液が流れでる。
それは、今し方砕いた女の頭から流れ出るそれと混ざり合った。

「これで、ハッピーエンド?あはぁ……あははははぁ!!」

気持ちが昂ぶり、俺はそのまま失禁をした。

鉄パイプを、何度もラッキーストライクに振り下ろす。
頭も、胸も、腕も、肩も、腰も、足も、全部、叩き潰した。
そうしなきゃ、俺が、殺されちゃうんだ。怖いんだ、怖いんだよ。

「全部。この世界が悪いんだ、うん」

ああ。
気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。

「全部、全部、全部、俺は、悪くないのに、うん、全部、他の奴らが、俺を、殺そうとするんだ」

いいながら俺は、ラッキーストライクの懐から、煙草を取り出した。中にはまだ、何本か残ってる。
白地に赤い丸が印象的なそのタバコを自分のポケットにしまった。

「戦利品ゲット~♪」

一年前の、歯の痛みを、俺はまだ、覚えてる。
その前の、陰口の痛みも覚えてるし、それからメガネのも――

「でも、歯の痛みはもうこれでわーすれた。あとまだいっぱい、痛かったから…うん、皆…殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺されちゃうから、痛いんだ、うん。だから、ね……良いよね、別に。奪っても、殺しても。そうされても、仕方ないよね」

ふと、自分の口からダラダラと涎が溢れていることに気付くが、もう、どうだっていい。
もう、どうだっていい。
今はただ、この恐怖と、痛みを、忘れたい。
忘れたいから、殺さなきゃ。
うん。殺そう。
殺そう。全員、殺そう。

閑静な夜の住宅街に、血まみれの鉄パイプを引きずる音だけが、ただ、響き続けた――

 完

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第四話

「話って何だよ。なんかとんでもないことやらかしたか?」

「いや…やらかしてはいないけど」

「じゃあなんよ?」

「………うん」

「はよ言えよ(笑)」

「お……俺な。俺……お前のこと…好き。…かも」

「おいおい流石に俺もバカじゃないぞ。もう今日だけで8人に騙されてっかんね?エイプリルフールだろ?」

「………………」

「……お、おい。だまんなって。俺騙されんよ?」

「………………」

「……え、マジでホモってこと?」

「………うん」

「あー……マジか。…すまん、無理だわ」

「………………だよね。ごめ――」

そこで、目が覚める。
またあの時の夢だ。

高校時代、好きだった相手に告白をした。
今にして思えば、なんでそんなこと…って思う。
でも、味わってみたかったんだ。
誰かと同じ気持を共有するってこと。
想うこと。
想われること。
手を繋いだり、唇を重ねたり、抱き合ったり。
独りじゃないって、どういう気持か、知りたかった。

「………気持ち悪い」

猛烈な吐き気に俺は、トイレまで保たないことを自覚し、近くのゴミ箱に嘔吐した。
あの夢を見た時は、いつもこうなる。

高校時代の告白以来。
そいつは目に見えて俺から距離を置くようになった。
今までは何気なくしてくれたスキンシップも、一切なくなったし。
メールも、電話も、向こうから来ることは一度もなかった。
極めつけは…陰口。

自分がもう、そいつの友人ではないことを理解した瞬間。
世界は、真っ暗になった。

吐瀉物の臭いが不快で、俺は早急にゴミ袋の処理をして、うがいをする。

「……ワンピース。今日発売日か」

カレンダーを眺めながら俺はひとりごちた。

ズボンのポケットにはまだ、自分の携帯番号を書いたメモが入っている。
今日、それをメガネに渡そう。

モヤモヤと燻ぶる胸の内を、なんとか誤魔化しながら俺はバイトの準備を始めた。





結局。
メガネは来なかった。

来ない理由を考えたところ、もしかしたらまた、クラスメイトにいじめられているんじゃないかと。
俺は町中走り回った。
けど、よくよく考えたら、アイツがどこの学校の、なんて名前のやつかもわからない。
一番に思いついた高台の公園にも、居なかった。
河川敷にも、校舎裏にも。

小さい時分から、長距離走は苦手だった。
堪え性がない性格で、我慢することが嫌いだった。
あんなに息苦しい状態でずっと走り続けるなんて、正気の沙汰じゃない。
そう思ってた。
今も、そう思う。

けど、なんでかな。
アイツがどっかで泣いてるんじゃないかって思ったら。
自分が苦しいことなんて、どうだってよく思えたんだ。

「もっかい…いってみるか」

息も整わないまま、俺は高台の公園へ走った。





滑り台と砂場と小さなベンチしか無い小さな公園に、数人の子供達が居た。
その中に、メガネを見つける。
やっぱりアイツ、また。

声をかけようとした、その時。

「俺の弟に、何やってんだぁぁあぁああああああああ!!」

叫び声とともに、なにかが俺の横を駆け抜けていった。
オレンジの服を着た声の主が、メガネの胸ぐらを掴んでる少年に殴りかかると、一気に乱戦になった。

「………………」

俺はただ、その様子を眺めていた。

「風介今だ!逃げろ!!」
オレンジが叫ぶ。
このオレンジがきっと、メガネにお守りを渡した兄貴だろう。

っていうか、メガネ…風介って名前だったのか。

オレンジは3人に囲まれて、袋叩きにあっていた。
自分に注意を引きつけて、メガネを逃がそうというハラなのだろう。

しかし、メガネは逃げるどころか、オレンジを囲んでいる一人を押し倒した。
オレンジはメガネを、メガネはオレンジを。
本当に、大事に思ってるんだろう。

「………………」

なんだ。
アイツ、ちゃんと…助けてくれる奴いるじゃん。
良かった…。

俺は、ポケットの奥で、メモ用紙の切れ端を握りしめた。

今俺が、良かった、って思ったこと。
それは…たぶん。
本心であり、本心じゃあない。

自分の居場所。
それが、そこにはないような気がして、俺は、子供達の騒ぎ声を聞きながら、帰路についた。



帰り道の繁華街。
町はキラキラと、輝いてる。
久しぶりに走ったせいか、膝の裏に痛みを感じることに気付く。

腕を組み歩く男女の後ろ姿も。
買い物袋をぶら下げた親子の姿も。
すれ違う人達の顔を、俺は見ないように歩いた。

空を見上げても。
月も、星も、出ておらず。

……なんでだろう。
歯の隙間を埋めている、仮の歯を舌でいじりながら。
涙が、流れて止まらない理由を、探していた。
胸の奥が、喉の奥が、体中が。
痛くて、痛くて、たまらない。

俺はあんな子供に、自分の居場所を、求めたんだ。
でも、その子供にすら、自分の居場所があった。
なんて。
なんて……惨めな命だろうか。
結局、やっぱり…俺はこの世に――

――刹那

「きゃぁあああああああああ!!」

聞こえたのは誰かの悲鳴と、衝突音。

(ああ。これはきっと、バチってやつだ……)

視界が大きく揺れると同時に知覚する。
自分のことしか考えられない俺に、神様がバチを与えたんだ。

でも…やっとこれで――

そこで、俺の意識は、霧散した。

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